IHI事件
最判平成30年10月11日

東芝事件
東芝株式を取得したと主張する投資者らが、①有価証券報告書・四半期報告書に不適切会計に関する重要な虚偽記載があったこと、②内部統制報告書でも内部統制が有効であると虚偽記載があったこと、③連結子会社の減損損失の開示を怠り適時開示義務に違反したこと、
を理由に、東芝に対して損害賠償を求めた事案。

オリンパス事件
オリンパス株式会社の株式を取得した投資者らが、オリンパスが提出した連結純資産を約500億円から約1200億円を過大に計上する等の虚偽記載等があったことを理由として、オリンパスに対して損害賠償を求めた事案です。

西武鉄道事件
本判決は、有価証券報告書等の虚偽記載を理由とする損害賠償請求において虚偽記載と相当因果関係のある損害の範囲について、最高裁判所がはじめて判示したリーディングケースです。

ライブドア事件
株式会社ライブドアホールディングスの株式を取得した投資者ら、同社が提出した有価証券報告書に連結経常赤字約3億円を連結経常黒字約50億円との虚偽の記載があったことを理由として、約108億円の損害賠償を求めた事案です。

アーバンコーポレイション事件
不動産に関するコンサルティング会社であった株式会社アーバンコーポレイションが提出した臨時報告書及び有価証券報告書に虚偽の記載があったことを理由として、同社の株主らが不服として再生債権査定異議の訴えを提起した事案です。

IHI事件
株式会社IHIの株式を取得した投資者らが、IHIが提出した有価証券届出書及び半期報告書に、連結中間純損益および連結当期純損益について虚偽の記載がなされていたことを理由として、IHIに対して損害賠償を求めた事案です。
事案の概要
株式会社IHI(以下「IHI」といいます。)の株式を取得した投資者らが、IHIが提出した有価証券届出書及び半期報告書に、連結中間純損益および連結当期純損益について虚偽の記載がなされていたことを理由として、IHIに対して損害賠償を求めた事案です。
本件の虚偽記載の内容は、工事進行基準が適用される長期大規模工事に関して、工事の総発生原価を過少に見積もり、売上が過大に計上されたというものです。長期の未完成請負工事については、収益の認識に関して、工事が完成し、その引渡しが完了した日に工事収益の認識を行う方法(工事完成基準)と、工事の完成、引渡しより前の時点において、決算期末に、工事進行程度を見積り、適正な工事収益率によって合理的な収益を見積もって工事収益の認識を行う方法(工事進行基準)が認められています(企業会計原則第二3B但し書)。工事進行基準においては、工事進捗率は、製造原価実績累計÷総発生原価見通しによって算出されるため、工事の総発生原価を過少に見積もると、工事進捗率が過大になり、当期の売上に計上する工事の収益額が過大になるという仕組みになっています。IHIはこれを利用し、売上を過大に計上していました。
本判決の概要
・本件は、発行市場での取得者に対する責任である金融商品取引法第18条が問題となった事案であるところ、当該場合の損害額は、金商法第19条第1項により、以下のとおり、法定されています。
<請求時に有価証券を保有している場合>
当該有価証券の取得について支払った額から、請求時における市場価額を控除した額
<請求時までに有価証券を処分した場合>
当該有価証券の取得について支払った額から、処分価額を控除した額
・もっとも、発行会社は、損害額の全部または一部が、虚偽記載等によって生じるべき有価証券の値下り以外の事情により生じたことを立証した場合には、当該部分に関しては損害賠償額を減額することができるとされています(金商法第19条第2項)。
・しかしながら、虚偽記載等によって生じるべき有価証券の値下り以外の事情による損害の額の立証が極めて困難な場合、発行市場での取得者に対する責任である金融商品取引法第19条には、流通市場での取得者に対する責任のように、裁判所が相当な額の認定をすることができるとする金融商品取引法第21条の2第6項のような規定がありません。
・本判決は、金商法18条1項に基づく損害賠償請求訴訟において、請求権者の受けた損害につき、有価証券届出書の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり以外の事情により生じたことが認められる場合に、当該事情により生じた損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、民訴法248条の類推適用により、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、金商法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額として相当な額を認定することができるとしました。
判旨
「金商法18条1項本文は、有価証券届出書のうちに、重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは、当該有価証券届出書の届出者は、当該有価証券を募集又は売出しに応じて取得した者に対し、損害賠償の責めに任ずる旨を規定する。同法19条は、同条1項において、同法18条1項の規定により賠償の責めに任ずべき額を、請求権者が当該有価証券の取得について支払った額から同法19条1項各号に掲げる額を控除した額としつつ、同条2項において、同法18条1項の規定により賠償の責めに任ずべき者は、当該請求権者が受けた損害の額の全部又は一部が、当該有価証券届出書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けていたこと(以下「虚偽記載等」という。)によって生ずべき当該有価証券の値下がり以外の事情により生じたことを証明した場合においては、その全部又は一部については賠償の責めに任じない旨を規定する。これらの規定は、虚偽記載等のある有価証券届出書の届出者に無過失損害賠償責任を負わせるとともに、請求権者において損害の立証が困難であることに鑑みて、その立証の負担を軽減することにより、請求権者への損害填補と併せて不実開示の抑止による証券市場の公正の確保を目的として政策的に設けられたものであって、請求権者にとって容易に立証することができる一定の額を賠償の責めに任ずべき額として法定した上で、その額から、有価証券届出書の虚偽記載等と相当因果関係のある当該有価証券の値下がり以外の事情により生じたことが賠償の責めに任ずべき者によって証明されたものを減ずるという方式を採用することにより、その目的を実現しつつ、事案に即した損害賠償額を算定しようとするものであると解される。
そうすると、金商法18条1項の請求権者が受けた損害につき、有価証券届出書の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり以外の事情により生じたことが認められるものの、当該事情により生じた損害の性質上その額を立証することが極めて困難である場合に、同法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額を全く認めないというのは、当事者間の衡平の観点から相当でなく、上記の趣旨にも反するというべきである。
そして、民訴法248条は、損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときに、その損害の額を全く認めないというのは、当事者間の衡平の観点から相当でないため、このような場合には、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができるとしたものと解される。
以上によれば、金商法18条1項に基づく損害賠償請求訴訟において、請求権者の受けた損害につき、有価証券届出書の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり以外の事情により生じたことが認められる場合に、当該事情により生じた損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、民訴法248条の類推適用により、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、金商法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額として相当な額を認定することができると解するのが相当である。なお、同法21条の2第6項のような規定が同法19条に置かれていないことは、以上の解釈を左右するものではない。」