主な裁判例

オリンパス事件

大阪高判平成28年6月29日

東芝事件

東芝株式を取得したと主張する投資者らが、①有価証券報告書・四半期報告書に不適切会計に関する重要な虚偽記載があったこと、②内部統制報告書でも内部統制が有効であると虚偽記載があったこと、③連結子会社の減損損失の開示を怠り適時開示義務に違反したこと、
を理由に、東芝に対して損害賠償を求めた事案。

オリンパス事件

オリンパス株式会社の株式を取得した投資者らが、オリンパスが提出した連結純資産を約500億円から約1200億円を過大に計上する等の虚偽記載等があったことを理由として、オリンパスに対して損害賠償を求めた事案です。

西武鉄道事件

本判決は、有価証券報告書等の虚偽記載を理由とする損害賠償請求において虚偽記載と相当因果関係のある損害の範囲について、最高裁判所がはじめて判示したリーディングケースです。

ライブドア事件

株式会社ライブドアホールディングスの株式を取得した投資者ら、同社が提出した有価証券報告書に連結経常赤字約3億円を連結経常黒字約50億円との虚偽の記載があったことを理由として、約108億円の損害賠償を求めた事案です。

アーバンコーポレイション事件

不動産に関するコンサルティング会社であった株式会社アーバンコーポレイションが提出した臨時報告書及び有価証券報告書に虚偽の記載があったことを理由として、同社の株主らが不服として再生債権査定異議の訴えを提起した事案です。

IHI事件

株式会社IHIの株式を取得した投資者らが、IHIが提出した有価証券届出書及び半期報告書に、連結中間純損益および連結当期純損益について虚偽の記載がなされていたことを理由として、IHIに対して損害賠償を求めた事案です。

事案の概要

オリンパス株式会社(以下「オリンパス」といいます。)の株式を取得した投資者らが、オリンパスが提出した有価証券報告書及び四半期報告書に連結純資産を約1200億円過大に計上する等の虚偽記載等があったことを理由として、オリンパスに対して損害賠償を求めた事案です。

オリンパスは、1990年代以降、有価証券投資等に係る含み損の損失計上をせずに、当該含み損を解消するために、含み損を抱える金融商品をファンドに簿価で購入させるなどし、損失計上の先送りを行い、実態に見合わない巨額の買収資金やFA報酬をファンドに流し損失の穴埋めを行うなどしていました。先送りされた損失は約1177億円、維持費用等を含めると約1348億円という巨額のものでした。

本判決の概要

本判決は、虚偽記載と相当因果関係のある損害について、本件は、株式取得時点において、オリンパスの株式を取得するために本件虚偽記載がなかった場合の株式の価値を超える余分な金銭等を支出したことによって損害を被ったという、高値取得損害の事案であるとしたうえで、虚偽記載によって取得時点で嵩上げされた株式の嵩上げ額自体と虚偽記載がされた株式を取得したことによって被るろうばい売り等の損害を損害であるとしました。

そして、虚偽記載公表前の株価の下落は、多くの場合、虚偽記載に関係しない要因による株価の下落であり、原則として虚偽記載と相当因果関係がない株価下落と考えられるが、株価下落を招いた要因、当該虚偽記載及び市場参加者の認識並びにそれらの関連性等を検討した結果、虚偽記載に起因する株価下落と認められる場合には、虚偽記載と相当因果関係がある株価下落に含めることができるとし、虚偽記載の事実が公表される前のオリンパスの代表取締役兼社長であったA氏の解職の報道による株価の下落も虚偽記載と相当因果関係のある株価下落に含めることができる旨を判示しました。

なお、オリンパスの有価証券報告書等の虚偽記載に係る事件は、本件以外にも東京地判平成27年3月19日があります。

判旨

「株主の損害の額については、当該株主が現に支出した金銭等との差額を原則に考えるべきであるが、本件虚偽記載と相当因果関係に立つ全損害が含まれる以上、虚偽記載によって取得時点で嵩上げされた株式の価値(以下「嵩上げ額」という。)自体に限られず、虚偽記載がされた株式を取得したことによって被る価額下落(虚偽記載の発覚に伴う会社の信用毀損、ろうばい売り等)(以下「ろうばい売り等の損害」という。)も損害として考慮されるべきである。これに対して、一審被告は、損害の発生時が株式の取得時点であるから損害の評価も株式の取得時点とすべきであると主張するが、不法行為の損害の額は口頭弁論終結時までの事情に基づき評価されるべきである。」
「取得時点での嵩上げ額及びろうばい売り等の損害については、当該株式の取得時点においては顕在化しておらず、虚偽記載が発覚して株価が下落することで反映されるものであるから、嵩上げ額及びろうばい売り等の損害部分を直接認定することはできず、虚偽記載の公表前後の市場価額の下落幅等を参考にして推計するほかない。」
「そして、これらの推計方法としては、・・・様々な方法が存在するものの、確立した方法は存在しないと考えられる。
したがって、嵩上げ額及びろうばい売り等の損害額を推計するに際し、上記のいずれかの推計方法に依拠することなく、本件の事実関係及び証拠等に照らして合理的と考えられる方法を検討して行うのが相当であるところ、その検討に際しては、本件虚偽記載の公表前後の株価下落部分のうち、嵩上げ額及びろうばい売り等の損害部分が反映された部分を確定する必要がある。」
「株主が株式を取得してから、虚偽記載の事実が市場に公表される前までの間に生じた株価の下落については、多くの場合、虚偽記載に関係しない無関係な要因・・・による株価の下落というべきであって、原則として虚偽記載と相当因果関係がない株価下落と考えることができるが、株価下落を招いた要因、当該虚偽記載及び市場参加者の認識並びにそれらの関連性等を検討した結果、虚偽記載に起因する株価下落と認められる場合には、虚偽記載と相当因果関係がある株価下落に含めることができるというべきである。」
「本件虚偽記載の公表前であるものの、A解職報道の日である平成23年10月14日以降のY1株式の株価変動は、本件虚偽記載と相当因果関係を有するとみるのが相当である。」
「以上によれば、本件虚偽記載と相当因果関係のある株価下落の始期と終期は、A解職報道の日である平成23年10月14日から一審原告らの各売却日までのY1株式の株価下落の始期と終期であり、始期の1株当たりの金額としては平成23年10月13日のオリンパス株式の終値である2482円であり、終期の株価は各一審原告の売却額がそれに当たるということになる。
ただし、①取得時点におけるY1株式の市場価額が2482円(上記株価下落の開始時点)より低い株式については、Aの解職報道の時点以降の株価下落分のうち、2482円から取得時点の市場価額までの下落分は、本件虚偽記載と無関係に上昇していた価額が下落したにすぎず、取得時の高値取得が反映されたものとはいえないから、取得時点の市場価額と処分価額との差額が本件虚偽記載と相当因果関係のある株価下落となる。」
「また、②取得時点におけるY1株式の市場価額が2482円(上記株価下落の開始時点)より高い株式については、取得時点の市場価額と2482円との差額は本件虚偽記載と関係のない株価下落であり、Aの解職報道の時点以降から一審原告らが売却した時点までの株価下落分は本件虚偽記載と相当因果関係のある範囲の株価下落であるから、2482円から処分価額を控除して算出される額が、本件虚偽記載と関係のある範囲の株価下落となる。」
「嵩上げ額及びろうばい売り等の損害額は、本件株価下落額に反映されるものの、発生する本件虚偽記載と相当因果関係のある株価下落額にそのまま等しく反映されるとはいえない。
また、嵩上げ額及びろうばい売り等の損害額が本件株価下落額に一定の割合で反映されると考えても、その割合は、株式取得時期、株式取得時期において本件虚偽記載が一審被告の真実の計算書類に影響を及ぼす程度、株式取得時から本件虚偽記載の公表までの期間の長短等の事情によって異なる上、各株主が各取引毎に取得した株式について、それぞれの売却時期の違い等を踏まえた調整も必要となるから、それぞれの反映される割合を前方視的に正確に認定することは極めて困難である。
したがって、本件は、損害が発生したことは明らかであるが、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときに当たるから、民訴法248条を適用して相当な損害額(嵩上げ額及びろうばい売り等の損害額)を認定するのが相当である。」
「①一審被告は、成長が続く内視鏡市場において圧倒的に優位な地位を占めており、医療事業における成長に陰りは見られないなどと評価されるように(乙19〈p11〉)、本業の業績は順調であって、高い技術力を有する優良企業であると評価されていたこと、②原判決を引用して説示した原判決「事実及び理由」欄の第3の2のとおり、本件虚偽記載は、一審被告の連結貸借対照表の純資産額を平成13年3月期~平成24年3月期第1四半期という長期にわたり、最大1200億円余りを嵩上げするものであり、真実の純資産額と虚偽の純資産額との対比でも最大約40%に及ぶ大規模なものであったものの、原判決を引用して説示した原判決「事実及び理由」欄の第3の4の東京証券取引所がY1株式の上場の廃止を相当であるとは認められないと判断した際の理由においても述べられているとおり、一審被告の連結損益計算書の純利益額についての虚偽記載ではなかったため、一審被告の本業での利益水準や業績動向に基づく市場の評価を誤らせるようなものではなかったこと、③それにもかかわらず、本件虚偽記載の内容や規模の大きさに加えて、Aの解職が投資家の関心を惹くものであったこともあり、多数の報道機関により大きく報道されたことも相まって、平成23年10月13日に2482円であったY1株式の株価が平成24年1月31日までの間に概ね900円~1300円にまで大きく下落したことなどを総合考慮すると、本件株価下落部分には、一審原告らの損害額とすべきでない下落分も一定程度含まれているものと認められ、その割合を2割とみて、これを控除するのが相当である。

したがって、本件における嵩上げ額及びろうばい売り等の損害額は、本件株価下落分の8割に相当する額であると認定するのが相当である。」
「金商法21条の3第2項による推定損害額は、1株当たり602.16円であり、・・・民法709条に基づく請求に係る損害額よりも少額となるから、一審原告らの金商法21条の2に基づく請求を容れる余地はない。

よって、争点7について判断するまでもなく、一審原告らの金商法21条の2に基づく請求は理由がない。」