東芝事件
東京地判令和5年12月21日

東芝事件
東芝株式を取得したと主張する投資者らが、①有価証券報告書・四半期報告書に不適切会計に関する重要な虚偽記載があったこと、②内部統制報告書でも内部統制が有効であると虚偽記載があったこと、③連結子会社の減損損失の開示を怠り適時開示義務に違反したこと、
を理由に、東芝に対して損害賠償を求めた事案。

オリンパス事件
オリンパス株式会社の株式を取得した投資者らが、オリンパスが提出した連結純資産を約500億円から約1200億円を過大に計上する等の虚偽記載等があったことを理由として、オリンパスに対して損害賠償を求めた事案です。

西武鉄道事件
本判決は、有価証券報告書等の虚偽記載を理由とする損害賠償請求において虚偽記載と相当因果関係のある損害の範囲について、最高裁判所がはじめて判示したリーディングケースです。

ライブドア事件
株式会社ライブドアホールディングスの株式を取得した投資者ら、同社が提出した有価証券報告書に連結経常赤字約3億円を連結経常黒字約50億円との虚偽の記載があったことを理由として、約108億円の損害賠償を求めた事案です。

アーバンコーポレイション事件
不動産に関するコンサルティング会社であった株式会社アーバンコーポレイションが提出した臨時報告書及び有価証券報告書に虚偽の記載があったことを理由として、同社の株主らが不服として再生債権査定異議の訴えを提起した事案です。
事案の概要
株式会社東芝(以下「東芝」という。)の株式を取得したと主張する投資者らが、①被告東芝が提出した有価証券報告書及び四半期報告書には、不適切な会計処理に起因する重要な事項についての虚偽記載があったこと、②それにもかかわらず、内部統制報告書に、被告東芝の財務報告に係る内部統制は有効であると判断したと記載され、重要な事項についての虚偽記載があったこと、被告東芝が、連結子会社において減損損失を計上したことの開示を怠り、適時開示義務違反があったことを理由として、東芝に対して損害賠償を求めた事案です。
第三者委員会によれば、東芝は以下の不適切な会計手法を用いて利益の過大計上を行っていたとのことです。
▷ 工事進行基準の恣意的運用による原価の過少見積もり、工事損失引当金の計上の先送り
▷ 損失が見込まれる案件について、引当金・評価損の計上の先送り
▷ 在庫評価の操作
本判決の概要
本件の原告らの多くは、振替株式の名義株主でない者(「非名義株主」)らであったところ、本判決は、振替株式の非名義株主である原告は、有価証券を「取得した者」(金融商品取引法第21条の2第1項)に該当せず、また、不法行為に基づく損害賠償請求権を有しない旨を判示しました。なお、本判決は、名義株主が非名義株主の指示等を受けて損害賠償請求権を自ら行使したり、非名義株主が名義株主から債権の譲渡を受けることは可能である旨も判示しました。
本判決は、金商法21条の2第1項の「虚偽の記載」該当性について、投資者の投資判断及び市場における当該有価証券の価格形成に重要な影響を与える事項について、当該記載が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に違反した会計処理によってされたか否かに基づき判断すべきである旨を判示しました。
また、本判決は、虚偽記載と相当因果関係のある損害は、高値取得部分及びろうばい売り等から生ずる損害であるとして、それは虚偽記載発覚による株価下落分に反映される旨、虚偽記載と無関係な要因によると認められる下落分として市場要因による下落分を控除する旨を判示しました。
なお、東芝の有価証券報告書等の虚偽記載を巡っては、東京地判令和3年5月13日をはじめとして、多くの裁判例があります。
判旨
「社債等振替法は、株式を発行する会社が現在の株主を把握し、株主の権利行使という集団的法律関係を画一的に処理することを可能とするため、振替株式についての権利の帰属は振替口座簿の記載又は記録により定まるものとし(社債等振替法128条1項)、振替口座簿上の名義人(加入者)がその口座に記録された振替株式についての権利を適法に有するものと推定すると規定するとともに(社債等振替法143条)、振替株式の譲渡においては、振替株式の流通性を確保するため、株券発行会社における株式譲渡についての株券の交付を効力発生要件と定める会社法128条1項に相当する実質を振替株式についても実現するため、当該株式に係る振替口座簿上の増加記録を譲渡の効力発生要件と定め(社債等振替法140条)、振替口座簿上の増加記録を受けていない場合、株式譲渡の効力は発生しないこととしている。そうすると、振替株式の譲渡がされた場合、これに対応する振替口座簿上の増加記録を受けていない者が当該振替株式を取得したとの効力は生じず、当該譲渡について自己の振替口座簿に増加記録を受けた者こそが法的な効力をもって当該振替株式を取得するということになる。金商法21条の2第1項は、同項の適用対象となる者について、「有価証券を・・・取得した者」と規定しており、この文言に照らすと、振替渉式の譲渡に対応する振替口座簿上の増加記録を受けた者すなわち名義株主が、金商法2条2項により有価証券とみなされる有価証券表示権利を取得した者として、これに当たると解することが、社債等振替法の規律を踏まえた自然な文理解釈というべきである。
そして、金商法21条の2は、有価証券報告書等の虚偽記載等によって損害を被った投資家の保護の見地から、一般不法行為の規定の特則として、その立証責任を緩和した規定であり・・・、同条の適用範囲は安易に拡大すべきではない。
以上のことからすれば、自己の振替口座簿に増加記録を受けた名義株主が上記「取得した者」に当たると解するのが相当である。」
「社債等振替法は、振替口座簿上の名義人(加入者)がその口座に記録された振替株式についての権利を適法に有するものと推定し、振替口座簿の増加記録を受けていない場合、株式譲渡の効力は発生しないことを定めているから、市場で購入された振替株式である被告株式の法的な所有者(金商法上の「所有者」の意。株主権を有する者)は、名義株主であって、その背後にいる実質的な投資家である非名義株主原告ではないというべきであり、それにもかかわらず本件において非名義株主原告を破告株式の法的な所有者とすべき特段の事情は認められない。すなわち、本件において、振替株式である被告株式の譲渡人から当該株式を購入取得したのは、名義株主であって、非名義株主原告ではないというべきである。
したがって、振替株式の価値の毀損が生じたことによって直接的に損害を被るのはあくまでその所有者である(株主権を有する)名義株主である。そもそも、非名義株主原告と名義株主との契約関係が信託であれば(本件ではその可能性を排斥し切れていない。)、被告に対して損害賠償請求権を行使し得る権利者が受託者である名義株主であることは明らかである(信託の受益者である非名義株主原告は、信託スキームの内部関係において名義株主に対する請求をすることができるにすぎない。)が、非名義株主原告と名義株主との契約関係が信託でない場合であっても、名義株主が株主権を有し、上記(直接的な)損害についての被告に対する損害賠償請求権を有するのであって、本件において名義株主に帰属する同じ債権が非名義株主原告にも帰属するとする法的根拠は見いだせない。そして、非名義株主原告において、直接の被害者である名義株主には生じない独自の損害(いわゆる間接損害)が発生したことはうかがわれない。もとより非名義株主原告は、株主権を有せず、名義株主に対する債権を有するのみであるところ、上記のとおり被告行為により直接損害を被ったのは名義株主であり、非名義株主原告主張の損害はそれと同じ損害であり独自の損害ではないこと、本件における被告による侵害態様や、被告が非名義株主原告の名義株主に対する債権を害する故意を有していたとは認められないこと、社債等振替法を含む会社法の秩序等を併せ考慮すると、被告が非名義株主原告の債権を侵害する不法行為をしたと認めることもできない。
なお、このように解しても、名義株主が非名義株主原告の指示等を受けて被告に対して損害賠償請求権を自ら行使したり、(それが現在のカストディ契約の実務上現実的でないというのであれば)非名義株主原告が名義株主から当該債権の譲渡を受けたりすることは可能であり(本件において、たとえ非名義株主原告が、自らが「実質株主」として損害賠償請求権を有するとの見解を抱いていたとしても、本論点に係る法的リスクがあることは明らかであった以上、その法的リスクへの対応として、消滅時効が完成する前に訴えを提起するに当たり、自身の上記見解からは「念のため」という位置付けになるが、上記のような債権譲渡を受けておくといった対処をとることは可能であった。)、本件においてそのことが困難であったことをうかがわせる事情は認められないから、非名義株主原告の権利保護に欠けるところはない。
よって、非名義株主原告による不法行為に基づく損害賠償請求は認められない。」
「金商法の規定に基づき提出される財務計算に関する書類は、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って作成しなければならないとされている(金商法193条、連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則1条1項等参照)。このことに照らせば、有価証券報告書等の記載が、不法行為責任が成立し得る虚偽記載であるか否かや、金商法21条の2第1項にいう「虚偽の記載」に該当するか否かは、投資者の投資判断及び市場における当該有価証券の価格形成に重要な影響を与える事項について、当該記載が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に違反した会計処理によってされたか否かに基づき判断すべきである。」
「被告の代表取締役社長や事業グループ担当執行役といった経営トップらが、不適正な会計処理が多くのカンパニーにおいて同時並行的かつ組織的に実行又は継続されていたことについて、これに関与したか、少なくともその継続を認識し得たのに、中止又は是正を指示しなかったこと、幹部職員等の担当者も、経営トップらが有している見かけ上の当期利益の嵩上げという目的の下で、不適切な会計処理を実行し又は継続したことが、本件虚偽記載部分に係る不適切な会計処理の原因となったと認められる(甲23、弁論の全趣旨)。このことに照らせば、被告の組織体としての行動として、不適切な会計処理が行われてきたとみることができ、その結果、本件虚偽記載部分を含む本件有価証券報告書等が提出され、投資者の財産権という重要な法益が侵害されたものであり、かつ、少なくとも上述した者のいずれかに過失があるということができる。
そうすると、法人としての被告は、有価証券報告書等の提出に当たり、その重要な事項について虚偽記載がないように配慮すべき注意義務を怠ったものとして、本件名義株主原告らに対して民法709条に基づく損害賠償責任を負うというべきである。」
「まず、投資家は、本件虚偽記載部分がなかった場合の株式の価値を超える部分(すなわち、虚偽記載部分の存在によって株価が不当に高く評価され、嵩上げされた株式価値相当分)について出捐したことで損害を被っているから、実際の情報が反映されないことで価値が高く評価された株式価値相当分(高値取得部分)は、本件虚偽記載部分と相当因果関係のある損害に当たる。」
「次に、本件虚偽記載部分が発覚したことで、信用毀損等が生じ、投資家が保有する株式を売却する行動に出ること(以下「ろうばい売り等」という。)は、被告には予見可能性があり、ろうばい売り等から生ずる株価の下落についても虚偽記載という不法行為によって通常生ずる損害というべきである。」
「…以上によれば、本件虚偽記載部分と相当因果関係のある損害は、高値取得部分及びろうばい売り等から生ずる損害がこれに当たるというべきである。そして、上記損害は、本件虚偽記載部分が発覚して株価が下落する過程で顕在化し、その下落分に反映されるものと考えられる。そうすると、損害の算定に当たって、下落分を把握する必要があり、まず、①本件公表後の株価の推移を見て、虚偽記載の発覚前後の株価の下落のうち、虚偽記載と相当因果関係のある株価下落の範囲を確定する。次に、②上記①の範囲の株価下落に、市場要因など、虚偽記載と無関係な要因によると認められる下落分がある場合には、その下落分は相当因果関係のある損害とはいえないから、これを控除する。さらに、③本件虚偽記載部分は継続的に行われて累積して増加しており、取得時期によって虚偽記載の程度は異なるから(すなわち、本件公表時に取得時期が近いほど虚偽記載部分は増加するから)、それに応じた修正を行う必要がある。また、④原告らが処分した被告株式の中には、取得時期及び処分時期によっては、処分価額が取得価額を上回るものなどがあるから、投資家が虚偽記載によって被った損害について、相当因果関係の見地等から、取得価額と処分価額を考慮して損害額を認定する必要がある。以上を踏まえて損害額を検討するが、⑤高値取得部分及びろうばい売り等が株価下落分に与えた程度は、その性質上、正確に把握することは困難なものである上、本件では複数期にわたって内容の異なる虚偽記載がされており、被告株式の取得時期に応じて高値取得部分は異なり、また、ろうばい売り等による株価下落への影響も異なるため、株価下落分の把握は極めて困難というべきであって、上記損害は、損害の性質上その額を立証することが極めて困難なときに当たるから、民訴法248条を適用して、相当な損害額を認定するのが相当である。」
